適性検査の選び方
(1)適性検査を選ぶ際の「ポイント」
●「求める人材像」を明確化し、出来る限り情報を集めて比較検討を行う
世の中にあまたある適性検査の中から自社にふさわしい検査を選ぶ際は、「求める人材像」を明確化しておくことが不可欠である。ツールによって得られる情報が違うため、「求める人材像」が定義されていなければ、どの尺度に着目して適性検査を実施すればいいのか分からないからだ。
ただし、「求める人材像」が明確化され、その基準にふさわしい適性検査を選択すれば、自動的に適切な人材を採用できるというわけではない。なぜなら、適性検査は「測定できる範囲」が限られているからだ。例えば、能力や専門性、性格、価値観などは適性検査で測定しやすいが、忍耐力、創造性、コミュニケーション力、機転などは、測定することが難しい。一般的に適性検査で測定できるのは、心理学的な理論から概念が明確となっていて、尺度で表せるものである。このような限界があることを理解した上で、適性検査を選択することである。
いずれにしても適性検査に対して正しい理解をした上で、活用することを忘れてはならない。その際、人事担当者は一定の基準を持って、適性検査を見極める視点が必要である。具体的には、以下のような基準が適切かどうかを確認することだ。
尺度得点 | 「尺度名が、測定したい内容を表しているか」「測定したい性質を、きちんと測れるような質問項目になっているか」といった視点で、尺度得点が適切かどうかを判断する。 |
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質問項目数 | 「項目数が少ないと、個人差として特定できない」が、「質問数が多過ぎると、応募者への負担が大きくなる」。この点を確認するために、事前に報告書の見本、質問冊子などを事前に見て、チェックしておく。 |
サンプリングデータの量・質 | 比較対象となるサンプリングデータの量と質を確認する。一般的には、サンプル数は1000人以上、また比較する対象として代表性を持った偏りのないデータであることが望まれる。 |
尺度の信頼性 | 2回実施しても、同じ結果が出るかどうか。尺度の「信頼性」(安定性・一貫性)を確認する。 |
表示 | 検査結果が見やすく表示されているか、誤解を招く表現がされていないかどうかなどについて、報告書のサンプルを見て確認しておく。 |
実施方法 | 自社で行う場合に実施方法が十分に解説されているか、適性検査提供会社が実施する場合には丁寧に実施されているかどうかを確認しておく。 |
なお、適性検査の精度を測るためのものとして、「信頼性」「妥当性」「標準性」という概念を使用するが、これらは理論的な想定値であり、「信頼性」については誤差を含む。そのため、適性検査を導入する際には、この誤差の程度を事前に把握し、その限界を理解しておくことだ。
- 妥当性:測ろうとしている尺度を測る道具であるか(利用目的・場面にふさわしいか)
- 信頼性:測定誤差のない検査かどうか(測定の安定性・一貫性があるか)
- 標準性:何を母集団とした偏差か(比較基準となる母集団において、どのくらいの位置にあるか確認できるものか)
適性検査を選択する際、どうしても所要時間や手続きの手間、採点サービスの内容、コスト面に目が向きがちだが、正しい検査結果があって、初めて自社が求める人材を採用することを忘れてはならない。そのためにも、できる限り情報を集めて、比較検討した上で導入する検査を決定することが大切である。
(2)適性検査使用時の「留意点」
●適性検査の限界と効用を十分に理解し、検査結果を読み取る力を養う
求人難が叫ばれる一方、求人サイトなどインターネットによる採用が進んだ結果、いかに大量応募者に対して効率的に対応し、自社が求める人材を採用できるかが、人事担当者の大きな課題となっている。近年、このような点から適性検査に対する「期待値」は大きく上がっている。しかし、適性検査は科学的なアプローチで切り取れる人物の一部分を測定するものであり、検査結果が絶対的な尺度とはなり得ない。そのため、測定できる範囲を十分に確認した上で、求める人材の要件を明確化し、「求める人材像」に近しいと思われる応募者を次選考に進めるための手段として、適性検査を活用するべきである。そうすることで、簡便に科学的アプローチによる検査結果の「恩恵」にあずかることができる。単なるスクリーニングの手段として捉えるのではなく、このような適性検査の限界と効用を十分に理解することが大切である。
ポイントは、適性検査の結果とその他の選考手段の結果を統合し、個人の特性をよく把握した上で採用選考を行うことである。そして、配属する部署・職種などを決め、どの上司の下に置いて、どのような経験を積んでいけば能力が高まり、人材を生かせるかまでを考えた上で、採否を決定する必要もある。そのためにも、人事担当者が検査結果を読み取る力を養うことが大切だ。
また、得られた検査結果を単年度のみの活用に終わらせず、継続して利用することにより、年度ごとの人的資産としてデータを蓄積していくべきである。それらのデータを入社後に成果を出している人材の要件と比較していくことにより、次回以降、適性検査においてどの要件を重視するかを見直すことができる。